僕はステージのMCなどで、良く自虐的なことを言ってウケを狙います。
関西人特有の笑いの取り方なんじゃないかなって気もします。
夫婦漫才が、その離婚をネタにするような、ですね。
そんなこともあってか、「納浩一はいつもステージでネガティブな発言をする」と思われているようです。「ジャズじゃ食えない」的な発言。
そしてツイッターでもブログでも、それに類することを色々発言してきました。
そんな僕の発言を読んだある方から、「あなたのネガティブな発言にショックと受けた」というメールを頂きました。
でも僕自身は、これから音楽を志そうという若者の、音楽の道に進むことを諦めさせたい訳でもなく、またジャズを楽しもうとしているアマチュアの気持ちを萎えさせたりすることを目的として発言しているわけではないんです。
そのあたり、僕の発言を読んでもらえれば分かるだろうと思っていたのですが、そうじゃない人が実際に居た。ということは、その方だけじゃなく、そう思っている人が相当数居るのではないかという危惧の念を抱いてしまいました。
そんなことで、その方へ送った返答メールに加筆したものをブログにアップしてみます。
僕が伝えたいことは、ネガティブな、後ろ向きなものではなく、どうすればこの日本のジャズの状況、もっと言えば日本の文化や政治の状況が良くなるんだろう、みんなで真剣に考えませんかという問題提議なんです。
ということで、以下のものが、その方へ送った返事のメールです。
僕の発言をネガティブと感じ、不快感を与えているとするなら御免なさい。
でもすくなくとも僕自身は全くネガティブではありません。
もっといえば、後輩の指導やジャズの発展、拡散等々、多くのジャズやポップスのミュージシャン中でも相当貢献している方だと自負しています。
ですので、ネガティブになってギブアップしているわけでは全然ありません。
僕は真剣に、真摯に、この状況と闘っているつもりです。
だからブログやツイッターでこの現状を多くの人に知ってもらいたいと思い、発言しているのです。
そういう意味では、僕の発言や文章に接して、「?」って感じ、「一体こいつは何を嘆いているんだ?」って思って頂いて、それが日本の音楽やジャズの状況、ひいては文化の状況を見つめ直すきっかけになり、そしてそれに対して前向きな発言や行動をおこしてもらいたいのです。
いわゆる問題提議をしたいということなんです。
僕のツイッターやブログをもう一度読んでみてください。
「もうみんな音楽を志すのは、諦めろ! 無理無理!」というようにはけっして言っていないはずです。
今のような厳しい状況を知っておくことは、それでも音楽の道に進みたいという人には大事な事だと思うんです。
「大丈夫、大丈夫。 適当にやってりゃなんとかやっていけるよ。」なんていう無責任な態度は、先輩として、後進を指導するものとして、とても取れません。
僕自身に関していうなら、音楽を通して多くの人に夢と勇気と喜びを届けられればと思っていますし、この30年、実際かなりできて来たという思いはあります。
これから先も、僕のステージを見た人に、「ああ、見に来て良かった! 明日からまた頑張ろう!」っておもって帰っていただけるよう、真剣に音と対峙してるつもりです。
ということで、もし僕の発言を読んでネガティブなイメージを持たれたとしたら、僕の発言の仕方が悪かったのかも知れませんね。
でもぼくは現状を嘆いてはいますが、でもそれに対して僕たちミュージシャンはどういう態度を取り、どういう行動をすべきかと言うことも、出来うる限り述べているつもりです。
そして日本の文化のレベルの現状に関して。
娯楽と言う意味でも、芸術に触れるという意味でも、日本の文化は昔よりはずっと多様化しています。そしてそのことによって、それらに接して、豊かさを享受している人が一杯居ることも良く分かります。とってもいい時代ですし、良いことだと思います。
でもだからといって、手放しで喜んでいられるような状況では無いとも思っています。
文化のレベルというのをどのように計るかは分かりませんが、僕の実感として、僕の若い頃と比較して今はみんな、あまり深いものを求めていないような気がしますし、そういう意味において、日本の文化的レベルが落ちてきていると実感しているわけです。
音楽だけに限らず、絵画・彫刻・文学・映画・演劇等々、そういった様々な芸術のジャンルを見ても、多くの人が、より浅いもの・イージーなもので良し、というような風潮になってきているような気がします。
もちろん、僕自身がそういったジャンルをすべて把握しているはずもないので、これは僕の印象でしかありません。
だからこの印象が単なる杞憂であれば、それで良いんです。
でも少なくとも僕の居るジャズ(これは誰よりも、現場に日々接しているものとして、僕自身が肌で実感できるフィールドです)の世界では、日本は完全に世界から離れて、どんどん浅くなってきています。
50年代、60年代、70年代に開花した日本のジャズ文化が、今その大輪を咲かせている、とはとても思えません。
若いジャズミュージシャン達が頑張っていることもよく知っていますし、優秀な若手がどんどん育っていることも知っています。
そんな中で今足らないのは、それを世に知らしめる媒体と、それを聞きたいと思う、耳の肥えた聴衆の存在だと思います。
今の日本では、そこが、増えるどころかどんどん消えていっているような気がしてなりません。
政治の世界では、投票権を持つ選挙人がしっかり育たないと、政治家、そしてその政治家が動かす政治は育っていきません。
音楽も、奏でる側と聞く側、双方が育たないと成熟しないと思っています。
そういう意味で、今日本のジャズファンは、本当に聞く耳を持ち、且つそれを進化させようと頑張ってくれている人がどれほどいるのかなっていう疑問を持たざるを得ないんですよね。
ジャズのような音楽は、聞く側にもそれなりの努力が必要です。だって抽象的でわかりにくいですからね。
「なんかよくわからな~い!」で済まされたら、こんな音楽、いつまで経っても分かるようになんかなりません。
あなたにとって難解で謎な音を奏でるミュージシャンに出くわしたとき、「こいつは一体何を考え、どこに行こうとしているんだ?」というような、探求心を持ってもらわないと、ジャズは楽しめません。
そういえば以前、70年代ころのスイングジャーナル誌を読んだときには愕然としました!
ジャズに関しての、喧々囂々の議論が何ヶ月にもわたって連載されていたんです!
悲しいかな、今そんな風潮はどこにもありません。
こんな風になってしまった今の状況を、僕は嘆いているんです。もちろん議論ばかりが良いとも思いませんが、そういう前向きな議論は、その音楽を発展させるには必要なときもあると思うんです。
ということで、僕のこの意見を読んで頂いた上で、もう一度僕のツイッターやブログを読み返してみてください。
それでも、「だってこんなネガティブなこと、言ってるじゃないか!」というような部分があれば、是非ご指摘ください。
発言を撤回したり修正したりしないといけないときもきっとあると思いますが、その発言の真意を説明したいというところもあるんです。
いやはや、言葉というものは本当に難しいし、さらに言えばツイッターのように140文字で言いたいことを言い切るのは実に至難の業です。
そんな中で誤解を受けるような発言があったかも知れません。それは反省すべきだと思います。でも最初にも言ったように、ジャズファンの皆さんをげんなりさせるような意図で言っているのではないことだけはご理解ください。
日本のジャズ、音楽、芸術、文化を愛していますし、それらがもっともっと発展して行ってくることを切に望んでいます。
また僕自身本当に微力ながらも、その一端を担えればと心から望んでいる次第です。