前回は「ジャズの魅力」に関して書いてみました。
今回は「ジャズの未来」についてちょっと書いてみたいと思います。
巷では僕のブログを読んだりライブ中でのMCを聞いて、「納浩一はジャズの未来に関して悲観的な発言しかしない!」というように捉えられているようです。
でもそれは違います。ぼくは「職業ミュージシャンとしては、ジャズの今、そして未来に希望が持てない」と思っているわけです。でもそれはジャズに限らず、あらゆるジャンルの職業ミュージシャンにいえると思います。ロック、クラシック、スタジオ、アレンジャー、芸能人やアーティスト(僕は、いわゆるメジャーな歌い手さんにこの言葉を使うことにはとても違和感があります。そのことについてはまたいつか触れます。)のサポート等々、今音楽業界のどこをどう切っても、職業としての音楽に明るく輝く未来が見えてくるフィールドはありません。これはジャズに限ったことではないと思います。
まあ、他のジャンルはさておき、とにかくこの先ジャズで喰っていくのは大変、いやもうほとんど不可能なレベルに来ているんじゃないかなとは感じているわけです。
しかしそれと、ジャズそのものの未来が同じ状況だと言っているわけではないんですよね。
一度その目をアマチュアの方に向ければ、これほどジャズが盛んに演奏され、また身近に聞くことのできる音楽となった時代は、かつて無かったのではないでしょうか? もちろんジョージ川口とビッグ4が日劇で大観衆を前に演奏していた、なんていうジャズ全盛の時代もあるようですが、それは今のジャニーズを見るようなもの。手を伸ばせがすぐそこにあり、誰でもがジャズの演奏にチャレンジできるというような類のものではなかったんじゃないかなって思います。
その昔は、レコードが今と変わらず3000円。こんな高価なもの、それこそジャズを勉強中の苦学生には買えるわけもありません。だからみんなジャズ喫茶に通って、リクエストして、その場で譜面に起こしていたわけですよね。(だから昔は、コード進行やメロディの怪しいスタンダード譜が一杯ありました。そういえば僕がジャズをはじめた頃は、輸入リアルブックが9000円超、しかももちろん、あちらの国での違法なものを誰かが密かに持ち帰ってきたものです! そんな高価なもの、僕も周りでは、個人では誰も持っていませんでした!)
楽器だってそうです。僕がベースをはじめた頃、フェンダーのジャズベースが30万円くらいしてました。よく楽器屋のショーウィンドウの中に飾られたフェンダージャズベを、指をくわえながら眺めていたものです。実際、学生にそんな高い楽器が買えるわけがありません。でもそれ以外というと、国産もので、「Gibbon」や「Thomas 」「Tomson」などなど、「うそやろっ、これ? どう見てもGibson(あるいはFender)のパクリやん!」みたいなコピー楽器のオンパレード(ところがどっこい、実はなかなか良かったりもしたのですが)。あまりに安い楽器ではさすがにフレット音痴で使い物にならないものも。そういえばミニアンプ・ビニールケース付き1万数千円、なんてのが通販があったなぁ。
とにかく1970年代後半は、まだそんな状況です。それでもそれ以前の、ジャズ界の諸先輩若かりし頃の話を伺うと、かなりマシにはなっていたらしいのですが。
ということで僕が育ったのはそういう時代。僕の親は僕に、ことあるごろに「そんな不良のやること早く止めて、ちゃんと勉強しろ!」といって反対していました。
ジャズもロックも関係なく、クラシック以外は不良の音楽だったんですね、僕の親の世代には。
それが今や大学ではロックもジャズの習えるわ、生徒が平気でFoderaをもっているわ(百数十万円ですよ!)、居酒屋や焼き肉屋でもジャズばかり! なんていい時代なんだ!(か?)
僕の時代はコピーするにもカセットテープしかない時代。押すところを間違えて、一体何度、大事な大事な元音源を消してしまったことか! それがいまではCDだのmp3だのYouTubeだの、何でもありますし、パソコンのソフトによっては、コピーのためにスピードを落とすことができるものもあります。
都内の一流ライブハウスでは素晴らしい外国人ミュージシャンをいつでも見ることができますし、しかも最近は学生割引なんてあったりもします。
もう何をどう比べても、ジャズを聞く・見る・勉強することに関して、僕の若かりし頃より、状況は数段良くなっていますね。
おっと、これじゃジャズの過去と現在の比較ばかり語っていますね。
でもこの比較が、未来の予測に繋がると思うんです。
とにかく今はみんなが手軽にジャズの演奏に取り組むことができる環境が出来ました。
手を伸ばせばすぐそこに楽器があり、習いたければすぐそこに教室や大学がある。
ちょっとパソコンで調べれば、素晴らしい映像の数々や歴史的名盤の音源が手に入る。
そんな状況なので、実際ジャズを演奏するアマチュアの方も凄く増えていると思います。
ジャズの裾野が本当に広がったんですね。
そのおかげで僕の出した本、ジャズスタンダード・バイブルも好調なわけです。
確かにプロのライブには閑古鳥が鳴いているようなときでも、ジャムセッションとなると多くの人が来たりします。
ということで最初にもいいましたが、ジャズを演奏して収入を得るというシステムに関しては、崩壊の危機にありますが、それは必ずしも、ジャズが下火になったり大衆から見向きもされなくなったということとイコールではないと思います。
時代が変われば物事のありようも変わる、そういう事態がジャズのフィールドでも起こっているのだと思います。
確かに、ジャズ道や楽器の技を極めようと思っている人には、そしてその過程でこれを生業にしようと思う人には大変な時代になりましたが、ジャズを気楽に楽しむ、しかも楽器を演奏することを通してジャズを楽しむことに関しては、本当に垣根が低くなったと思います。
そしてポイントが前回のブログ、ジャズの魅力です。そのブログでも言いましたが、こんな懐の深い音楽はありません。その深さがある限り、どの音楽が廃れようが、ジャズは生き続け、かつ必ず多くの人の心を捉え続け、そして楽器を演奏することの魅力と共に生き続けると思います。
もちろん実はその中には、本当に素晴らしい演奏者の音に生で触れることも大事な要素かと思います。
ジャズのこの有り様は、きっとこの先もずっと続くと思います。
ジャズ、そして音楽はやるのも聞くのも生が一番だと信じて止みません。
ジャズを演奏しましょう! そして聞きましょう!(居酒屋での聞き流しはNGです!)
ジャズを通じてちょっとでも良い人生を送ることが出来れば素敵だと思いますし、ジャズはそんなふうにこの先も脈々と生き続けるんじゃないでしょうか?
No Jazz、No Life!