10月31日付けの朝日新聞夕刊に、ピアニスト兼作・編曲家である、前田憲男さんの記事が載っていました。その中でこんな事をおっしゃっています。多分昭和30年ちょっとの頃のお話しだと思うのですが、「大卒初任給が1万円台だった時代、僕らミュージシャンは4万円くらい稼いでいた」そうです。
いま、大卒初任給は多分20万円くらいでしょうか? だとしたら20歳そこそこのミュージシャンが、都内のクラブでの演奏で80万くらい稼げたということですよね。すごいなぁ~!
もうひとつ別の逸話を紹介しますね。同じくピアニスト兼作・編曲家だった、今はなきコルゲンさんこと鈴木宏昌さんとお仕事をご一緒させて頂いたときに、コルゲンさんが話しててくれたのですが、彼が初めてジョージ川口とビッグフォーに参加したときは、まだ慶応の学生だったそうです。でももらうギャラが半端じゃない。ジョージさんが、お店からギャラとしてもらった百円札をテーブルの上に山のように積んで(その当時は、まじで百円札しかなかったそうです!)、数えもせずに適当に上から人数分で分けていったそうです。まるでトランプのカードを切るように。で、「はい、これお前の分な」って、背広の内ポケットに入りきらないくらいの百円札をもらったそうです。で、その後銀座に飲みにいって、コルゲンさんに曰く、「学生の俺がだよ、銀座でボトルキープだよ! なんていい時代だったんだろうね!」ですって。
こんな時代があったんですね。確かに昭和30年代はジャズが最も輝いていた時代かもしれません。そしてそのおかげで、当然ジャズミュージシャンも、最も華やかだったのでしょう。しかしその後、ロックミュージックが現れ、時代の趨勢は完全にポップスやロックに取って代わられたことは、皆さんもよくご存じかと思います。しかしそのロックやポップスも最近の音楽ダウンロード時代になり、CDの売り上げが激減することによって、大きな打撃を受けているという状況も、これまた周知の事実かと思います。
僕自身は1988年に東京に出てきてはや21年。お客の入りによって金額が決まるチャージバック制のお店ではなく、客の入りの善し悪しに関係なく、一定額のギャラがもらえるライブハウスでのその金額は、この間一度も上がっていません。簡単に言えば21年間昇級無しって事ですかね。でも仕方ないですよね。だってそうするためには、お客さんに払ってもらうライブチャージを上げないといけないんですからね。それはできないことも重々承知しています。
またCDを出すということに関しても、CDのセールスだけで食っていけているジャズミュージシャンは、ほぼ皆無といえるでしょうが、それでも、一枚でも多く売れて欲しいと思っていることも事実です。15年くらい前は、採算の合うラインが、売り上げ枚数3000枚あたりで、だいたいそれくらいは、どのCDも売れていたのが、それも今では、1000を切るくらいの数字に落ちています。なにをかをいわんや、ですね。これも簡単に言うと、パイそのものが3分の1になったってことですね。
さていよいよ本題。ここまで読んで頂いて、ジャズに未来があると思われる方はおられますか? 少なくとも右肩上がりという状況は、未来永劫無いと思いますね。
前回のブログでは、ジャズミュージシャンの生活という意味で、もうこれは成り立たない、絶滅もそう遠くない未来に現実味を帯びるだろうということをいいました。
その時にちょっといった、これがジャズを聞く側からの問題としてはどうだろうということに触れておきたいと思います。
先ほども言いましたが、いまやCDは本当に売れません。子ども達はみな1曲ずつダウンロードする時代なんですよね。こういう形態がジャズにも当てはまるかというと、甚だ疑問だといわざるを得ません。とくに唄のないインストゥルメンタルな楽曲を1曲単位でダウンロードする人はほとんどいないでしょうね。
ただCDの売り上げで食っているジャズミュージシャンはほとんどないということはいいました。ですので、幸いCDの売り上げがどれほど落ちようが、そのことで直接影響を受けるジャズミュージシャンはほとんどいないといえます。ただCDそのものが出せないということは、メディアに取り上げられたり、プロモーションすることもできないということになるので、CDを出していないアーテイストは、よっぽどまめにライブに足を運んでくださるかた以外には、この日本のおいては存在しないも同然ということになってしまいます。
ではライブに足を運んでもらっているか? そこでの大きな問題は、ジャズクラブに来るお客さんの高齢化です。若い人が本当に少ない。若い人は、ほとんどとっていいと思いますが、楽器を演奏する人なんですよね。でもそういう人も、ギャラ制でやっているようなお店はチャージが高いので、余り来てもらえません。いずれにしても、20代や30代のお客さんがかなり少なくなってきているというのが僕の実感です。
僕が自分のライブで、若い人を余り見ないっていうのは、僕が年をとったからなのでしょうか? 他の人がやっているライブに行くことって少ないので、わからないのですが、みなさん、どう感じておられますか? 僕の周辺だけにとっての状況ならいいのですが... 。
少子高齢化は日本の大きな問題ですが、ジャズを取り巻く状況も、とっても似ている気がします。
一時、若い女性に大いに人気のあったフュージョン系も、その衰退たるや目を覆いたくなるものがありますしね。
もちろん高齢の方でも、ライブに来て頂くことは本当にありがたいことです。これからも元気でどんどんライブに来た頂ければと思いますが、未来のことを考えると、もっともっと、多くの若い人に、聞く・見る・直に感じるという意味での、ジャズのライブの良さを知って頂ければと思うのですが、なかなか難しいですよね。
そんなことで、ライブシーンも活気がなくなって、CDも購入してもらえない。これじゃ、ジャズミュージシャンという職業そのものが、「ああ、昔そんなことやってる人がいたよね...」っていわれる日も、さほど遠くはないのかなって思わざるを得ません。
居酒屋や焼き鳥屋、喫茶店や商店街等々ではあんなにジャズが流れているのに! ジャズって、いつから聞き流すだけのBGMになっちゃったんですか、この日本では!!??