このアルバム「Little Song Book」を共同で作成したピアニスト、細川正彦さんが先日、突然亡くなりました。
パワーとエネルギーが服を着て歩いているような人だっただけに驚きしかありません。
心よりご冥福をお祈りします。
彼はピアノを弾くだけだなく、その趣味と知識は多岐に渡り、彼と一緒にいると本当にたくさんのことを知る機会を得ることができました。
このアルバムも、ピアノの演奏のみならず、アルバムのプロデュースから録音、ジャケット制作まで一人で手掛けていますし、さらには自らレーベルも立ち上げ、そこからの発売となっています。
このアルバムは、当時彼が住んでいた、福岡と熊本の県境の山奥にある農家の、その裏の古民家で録音しました。
窓からはセミやカエルの声が聞こえるようなそんな古民家に、フルサイズのグランドピアノを持ち込んでいたのですが、およそスタジオとは呼べないような場所。よく床が抜けなかったと思います。そんな場所でのレコーディングでした。
マイクも、全て自分で揃えたという自慢のものを、僕のアコースティックベースの前に立てるのですが、スタンドのコネクターが合わないということで、スタンドにガムテープで貼って固定していたように記憶します。
でも完成したその音を聞いた時、1時間何万円もするような都内のスタジオの音に全く引けを取らない音質に愕然としました。エンジニアの耳さえよければ、そしてしっかりとジャズに精通していれば、こんな場所でもここまでの音で録音することができるんだと。ひょっとしたらセミの声は入っているかもしれませんが。
しかも自らが弾くピアノのすぐ横に、デジタルのレコーディング卓を置き、スイッチを押したかと思うときおもむろにピアノを弾き出すという、一人二役に悪戦苦闘していた姿が今もはっきり思い出されます。
でもそんな雰囲気の中での録音だっただけに、実に力の抜けた、すてきな作品を作ることが出来ました。まさにこのジャケットのワンちゃんのような気分で聞くことの出来る音楽です。
そんな類稀な才能と、あまりに個性的な性格ゆえ、今の日本ではなかなか居場所がなかったのかと思いますが、ぼくは心から大好きなミュージシャンの一人でした。
そう、それこそ、昨今とんといなくなった「臭いのある」ジャズミュージシャンでした。
あの毒舌がもう聞けないかと思うと本当に寂しいのですが、今となれば、彼と一枚でも作品をその世に残すことが出来て良かったと思います。
彼は、僕がパークリーから日本に帰国したての、全く仕事がなかった時に最初に声をかけてかけてくれた一人でもあります。
まだまだ若く、さらには来月には新作も発表予定だったとか。
弾き足らなかった分や、語り足らなかった分は、あちらでたっぷりやってください。
お疲れ様でした!
別の作品ではありますが
細川正彦さんが レーベルの主催者、かつプロデューサー、録音エンジニアと、一人で何役も務める
伊澤隆嗣カルテット インナ・スプリング・タイム
は僕のWEBSHOPでも数枚在庫あります。
もしよければ手にとってください!
【CD】インナ・スプリング・タイム(伊澤隆嗣カルテット)