Donna Lee by Jaco Pastorius ベース譜
Donna Lee by Jaco Pastorius ベース譜
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ファイル名 | Donna Lee(jaco).pdf |
公開日 | |
バージョン | 1 |
制作 | 納浩一オンラインショップ |
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2016年12月号のベースマガジン誌に執筆した、「Donna Leeで学ぶジャズ・アプローチ」の原稿をサロンに公開することにしました。
ジャコ・パストリアスの演奏を完全コピーし、それを徹底分析し、そこから様々なソロのアイデアを考察しようという記事です。
楽曲解説
伴奏付きMIDIデータ
楽曲解説
1)Introduction
ジャコ・パストリアスの衝撃的なデビューアルバムの1曲目を飾るこの曲は、もちろんジャズのスタンダード曲として、ジャコの録音以外でも多くのジャズミュージシャンに取り上げられていますし、またジャズでのセッションの定番曲の一つとなっています。作曲者は一応、チャーリー・パーカーという事になっていますが、マイルス・デイビスは自身の作曲した曲だと言っています。まあ、ことの真意は分かりませんが、どちらが作ったにせよ、とにかくユニークな曲だと思います。
この「Donna Lee」は、それが最初に録音された1947年よりさかのぼること30年も前の1917年に録音された「Indiana」という曲のコード進行が元になっています。是非その元の曲を聴いてみてください。元曲は本当にシンプルでキュートなメロディですが、それだけにこの2曲を聞き比べると、「Donna Lee」のほうは、同じコード進行を使ってよくもまあここまで不思議なメロディに作り替えることができるものだと、驚くはずです。ですが、その不思議な雰囲気こそがジャズの独特のサウンドとも言えます。同じコード進行を使って、かたや「Indiana」という可愛らしいメロディ、一方「Donna Lee」では、独特の響きを持った不思議なサウンド、しかしそれこそが最もジャズらしい響きとなっているといえます。ジャズらしいフレージングが分からない、あるいはソロがどうしてもジャズっぽいサウンドにならないというような事で悩んでおられるベーシストの皆さん、是非この「Donna Lee」のテーマをしっかり分析してみてください。そういったことで悩んでいるベーシストがこのコード進行でソロを取れば、おそらく「Indiana」のメロディのようなソロになってしますはずです。もちろんそういうソロも有りなのですが、やはりジャズを演奏するのですから、ジャズらしいフレージング、言い換えればビ・バップライクな、クロマティック・アプローチやオルタードテンションをふんだんに使ったフレーズを使いこなせることも大事です。さらに言えば、この先に解説するジャコのソロではそういったフレージングのオンパレードです。ということで、まずはこの「Donna Lee」のテーマそのものをしっかり分析し、そしてしっかりと弾けるように練習することが大事かと思います。
そのジャコですが、おそらくベースマガジンの読者で、彼を知らないという人はいないでしょう。彼の影響を受けたベーシストが、この世界中に一体どれほど入るのでしょう?ある部分では、全てがジャコから始まったといっても過言ではないくらい、彼がこの世に送り出したアイデアは、ベーシストのみならず、多くの音楽家に多大な影響を与えた、いや未だに与え続けていると言えます。自分自身、今回こうやって彼の「Donna Lee」でのソロを採譜するに当たって、彼の凄さを改めて実感しています。そのポイントをいくつか挙げてみましょう。
まずはそのリズムの良さ。パーカッションと二人だけのこの演奏ですが、一瞬たりとも乱れることもなく、このソロを弾きこなしています。もうただただ驚くばかりです。そしてソロにおけるフレーズのアイデアの豊富さ。これはこの先の解説でたっぷり触れます。さらには、フレットレスベースなのにそのピッチの完璧さ。とてもフレットレスだとは思えません。そしてその豊かなイントネーションの付け方。ビブラートやスライド、グリスダウン、プリングオフはハンマリングオンといった、ありとあらゆるテクニックを駆使して、つややかなサウンドを作っています。
そして彼の代名詞とも言えるベースサウンド。僕は、このサウンドこそがミュージシャンの命だと思っています。ご機嫌なサウンドさえ持っていれば、手が動かなくとも、ソロが取れなくとも、ミュージシャンとしては形になりますが、それを持っていない人は、たとえどれほどの早弾きができても、いろんなフレージングを知っていても、やはりオーディンエスの心を捉えることが出来ないと思います。例えばジャコを聴いても、ミュージシャンでない人なら、彼が具体的にどんなことを弾いているのかは分からないはずです。が、あの独特のベースサウンドを聴けば、一瞬にして彼の音楽に魅了されてしまうはずです。サウンドとはかくも大事なものなのです。
ただ今回のこの講座では、リズムやピッチ、ニュアンス、サウンドといったことにはあまり触れることができません。もちろんそれらに関して、特筆すべき箇所があれば触れるようにしたいのですが、そういったことは文章ではなかなか伝えにくいことでもありますので、是非自分の耳でそういったことを聞き取ってください。楽譜というのは本当に最小の音楽情報しか伝えられません。ここに掲載されている楽譜に、ジャコのそういった素晴らしい部分を書き込むことは不可能です。ただジャコの素晴らしさ、凄さ、ユニークさをひもとくヒントにはなると思いますので、是非皆さんも、この譜面を見ながら、しかしこの譜面にある、おたまじゃくしの数々の潜む、ジャコの奥深さを読み取って頂ければと思います。
テーマ
実際この曲を、例えばジャズのセッションの時などに演奏する場合、ジャコがこの曲をベースで取り上げてくれたおかげで(せいで?)、ベーシストに、このテーマを弾いて欲しいという要望が来ることもまれではありません。そんなわけで、ジャズを志すベーシストたるもの、この曲のテーマは弾けるようにしておいた方がいいでしょう。そこでテーマ全体を通しての、演奏上のポイントや注意点に触れておきましょう。
とにかくこのテーマ、本当に難しいんです!もともとサックスでの演奏曲ですし、しかも先のトピックでも触れたように、25、26小節目のようなクロマティックな音列が多いので、ベースに限らず、弦楽器奏者にはまさに難曲といえるでしょう。また例えば2、5、7小節目に出てくるような、弦楽器ではかなり困難な音の跳躍もあるので、こういった場所を、ジャコのように見事にしっかり弾ききることは、本当に相当な技術が必要だと言えます。でもそういう意味では、実にいいトレーニング曲であるとも言えます。それこそ、つまらない、無機質なスケール練習や運指練習みたいなことに時間を費やすくらいなら、この曲を徹底的に弾きこなせるまで練習する方が遥かに有効ではないでしょうか? しかもそのまま、セッションでこの曲のテーマを取ることができるんですからね!
2)Altered Tension
ここでは、この曲のテーマから得られる、ジャズ独特のフレージングに関するヒントを解説してみます。この部分には、この譜面上で10個のコードが現れています。その中で、ジャズ独特のサウンドを最も得やすいコードが、いわゆるドミナントコード(○7という表記のコード)です。10個のうちの、F7、Bb7、Eb7、D7の4個ですね。
例えば2小節目のF7ですが、ここで使われているスケールはハーモニックマイナー・パーフェクト5thビロウ(以下、HmP5↓と表記)です。理論に詳しくない人には聞き慣れない言葉ですね。簡単に言うと、1拍目8分音符裏にある、Dbの音がこのスケールのポイントです。理論に詳しくない人はこの、○7というコードを見れば、全てミクソリディアンを使えばいいと思っている人がかなりいるようですが、ここではこのDbの音、テンション名でいうと、b13thの音がジャズサウンドを得るための重要な音であり、その音を含むスケールを設定することが大事です。
同じように考察していくと、3・4小節目のBb7では、3小節目1拍目の3連に2つ現れるGb の音。これもテンションb13thです。12小節目のF7では、3拍目の3連のGbとAb の音はテンションb9thと#9thに当たります。他の音も考慮に入れると、ここのスケールはコンビネーション・ディミニッシュ(以下、Com.Dimと表記)となります。16小節目の3拍目の3連も同じですね。このように、ドミナントコードの時に、今挙げたようなテンションノート(こういった音をオルタードテンションと言います)を使うことによって、ジャズらしいサウンドが得られます。
3)Chromatic Approach
ソロだけでなく、いわゆるウォーキングベースラインの時においても、ジャズ特有の響きを得るための重要なアイデアに、クロマティック・アプローチというものがあります。このアイデアを上手く使いこなせないと、それらのものがジャズっぽいサウンドになってきません。
ではそれがどのように使われているか見てみましょう。例えば25・26小節目を見てください。コードはFm7—C7ですが、Fm7の小節にはBナチュラルやC#の音が、C7のところではD#やDbの音が出てきますね。もちろんC7の場合は、先にも挙げた、テンション#9th及びb9thと見なすこともできますが、それだと3拍目にあるDナチュラルの音がスケール音としては不適当になってしまいます。#9thやb9thといったテンションがナチュラル9thと同時に存在するスケールは、基本的にはないからです。ですからD#の音は次に来るE へのアプローチノート、DbはCへのそれと見なすべきでしょう。同じことがFm7の小節でも言えます。そこに現れるBやC#は、それぞれ次に来るC やD へのアプローチノートと考えて良いでしょう。もちろん各小節の最初の3つの音、C-B-C、E-D#-EのBとD#は装飾音符(刺繍音)であると考えることもできますが、とにかくこの部分でのこのフレーズを聴いてもらえば分かるように、こういった音使いが、ジャズ特有のサウンドを生み出すのです。
ソロ
先ほど、この曲のテーマをきっちりと弾ききるということが本当に難しいと言いましたが、ジャコのソロに至っては、もうほとんど不可能と言えるくらい高度な内容です。そんなことなので、ジャコにあわせて、彼と同じように弾くということを目指すよりは、そのソロでのアプローチのアイデアを、自分のソロにも取り入れるといった程度にとどめておいたほうが良いかもしれません。でも「いや、ジャコと全く同じように弾けるようになりたい!」という方は、是非トライしてみてください。ということで、ソロのアイデアとして触れておきたい場所を挙げておきましょう。後にもトピックとして触れますが、35小節目のハーモニックスの利用は、ソロの入り口だけに実にインパクトがありますね。ここでは本来Bb7であるコードを、ハーモニックスを効果的に入れるために、その裏コードのE7におきかえています。裏コードを知らないという方は各自自主的に調べておいてください。51、52小節目でのEbとCという、長6度音程のダブルストップも実に効果的です。また61小節目の、BbとGからなる短3度音程を、そのまま平行移動させて降りていくというフレーズも、アウトフレージングの基本の基といえるでしょう。
4)Poly Rhythm
さてテーマが終わり、いよいよジャコのソロが始まりました。もう初っぱなからかっこいいフレーズやアイデアのオンパレードです。それらを全て取り上げていったら切りがないので、ここでは47・48小節目でのフレーズで使用されているアイデア、ポリリズムについて解説しておきましょう。ジャコはこのアイデアがとてもお気に入りのようで、このソロに限らず、彼の残した他の演奏の中でも頻繁に現れます。ポリリズムとはその名の通り、違ったリズムの取り方を同時に存在させるというアイデアです。ここでは3連音符を4つずつの塊に聞こえるようにアクセントをつけることで、4拍の中に、まるで3拍が入っているかのような状況になります。この場合これを4拍3連といいます。算数の問題ですが、4拍の、その1拍ずつの8分音符を3連にすれば、合計4×3=12になりますね。それを4つずつの塊と見なしてアクセントをつければ、12÷4=3になるという仕組みです。こういったフレーズをしっかりとリズムにはめながら弾きこなすにはかなりのリズムトレーニングが必要だといえるでしょう。それと、この部分でのフレーズに使用されているスケールはCom.Dimです。その他、37・38小節目でもそのスケールを上手く使って、低域から高域へと一気に上昇するフレージングにしていますね。
5) アッパーストラクチャーによるアルペジオの分散の効果的な利用
ジャコはこのソロの中で、アルペジオの分散によるフレージングを頻繁に使用しています。その場合、使用する音はもちろんシンプルなコードトーンの場合もありますが、テンションノートから導き出されるアッパーストラクチャーの利用もあります。アッパーストラクチャーとは、本来その部分にあるコードに対して、スケールに含まれる使用可能な音から全く別のコードを導き出すことによって、ベーシックに(下に)鳴っているハーモニーの上に(アッパーに)別のコードサウンドを載せるという考え方です。
50小節目を見てください。ここでのコードはF7ですが、アルペジオで使われている音から考えて、これはAMaj7(#11)のアルペジオの分散と考えられます。これらの音が全て含まれるスケールはというとF7オルタード(以下、Ait.と表記)スケールですね。
同じようなアイデアの部分をもう一箇所挙げておきます。70小節目を見てください。ここでのコードはEb7ですが、アルペジオの分散のために設定されているコードはE Maj7(9)です。この場合、その使用されている音から考えて、スケールはここもAit.と考えるしかないでしょう。(G#の音は、本来Eb7では使えないのですが…)
6)4thの音程のフレージング
ジャコの手が本当に大きいのは、彼の演奏しているときの動画などを見ていると良く分かります。どれほど大きいかと言えば、18フレットあたりのE弦を、親指を普段のようにネックの後ろにつけたままでもとどくほどです。きっと日本人のベーシストで、ここまで大きい手を持っている人はいないのではないでしょうか?
ということで、そんな大きな手を余すところなく使用したフレージングが、73・75小節目に現れる、4thの音程を使ったフレーズです。これもジャコがよく使うフレーズです。73小節目ではDbのコードに対して、Eb、Ab、Bbの音で4thのフレーズを作っています。それぞれルートに対して、9th、5 th、13 thに当たるので、それだけでもテンション感の多い音の選択ですが、それをさらに下から4度ずつ堆積した4thの音程にすることによって、また3連の高速パッセージでのフレージングにすることで、とてもインパクトのあるフレーズになっています。75小節目では、73小節目のフレーズをそのまま長3度平行移動し、同じモチーフを、音程を変えて弾いていますが、こうすることによってソロに一貫性が出てきます。こういう手法を「モチーフ・デベロップメント」といい、ソロでは非常に有効なアイデアです。
7) Harmonics
ジャコのプレイで、最も印象深いアイデアの一つに、ハーモニックスがあります。この演奏の中にも何カ所か、印象的なハーモニックスの使用がありますが、その中でも、それを最もユニークに使っているのが、80小節目だと言っていいでしょう。本来この部分でのオリジナルなコードは、79小節目がBbm7、80小節目がEb7です。ところがジャコはハーモニックスを効果的に使うために、79小節目から80小節目の2拍目までをE7、80小節目の3・4拍目をEb7と置き換えていると考えられます。79小節目に入った瞬間に4弦の開放でEの音を弾き、それに続いて3弦の4フレットと2弦の5フレット上で鳴る、C#とDをハーモニックスで出しています。その2つの音は半音でぶつかっているので、かなりの不協和音ですが、それが逆に絶妙の緊張感を醸し出しています。コードで言えば、E7の7thと13thの音に当たります。
そしてそれに続くハーモニックスは、彼が最もお気に入りのものだと言えます。どの演奏を聴いても、大抵このハーモニックスを使っていますからね。3弦の9フレット、2弦の9フレット、1弦の12フレット上で出る、それぞれC#、F#、Gの音ですが、コードEb7に対する7th、#9th、3rdの音で、Eb7(#9)のサウンドを作っています。ジャコは他の演奏では、このハーモニックスを出したあと、4弦の11フレットで実音のEb を弾くことが多いです。動画なのでチェックしてみてください。
8)Com.Dim.のフレージング
ポリリズムの所でも触れましたが、ジャコはこのソロの中でCom.Dim.スケールによるフレージングを随所で使っています。82・83小節目では、先に取り上げたときと同じように、そのスケールをちょっとポリリズムのアイデアが入ったトリッキーなリズムに乗せて弾いています。この部分でのコードはF7ですが、そのスケールのb9thであるF#の音と、コードトーンのA、C、Ebの音を組み合わせ、しかもそれらが上手く6度の音程で平行移動するようなフレーズを作っています。実にユニークですよね。
このように、フレーズを作るときのコツですが、ただどの音を選ぶかだけではなく、この部分のように、オルタードテンションノートを選択し、その上でポリリズムの使用や、また同じ音程の平行移動によるモチーフ・デベロップメントというような、いくつかの要素を組み合わせることによって、実にユニークな、かっこいいフレーズが出来上がるのです。87・88小節目あたりもCom.Dim.を使っていますが、ここでは1弦の12フレットから一気に4弦の3フレットまで下がり、それが再び1弦の9フレットまで駆け上がる、その時にしかもC7のCom.Dim.を使うことにより、実に緊張感のあるサウンドを作り出しています。もう開いた口が塞がらないとはこのことでしょう!
バックテーマ
このソロにおけるジャコのアイデアで、最も特筆すべきことと言ってもいいのが、最後のテーマのキーをEに転調していることです。このテーマをこの曲の本来のキーであるAbで弾くことすら至難であるのに、それをわざわざラストテーマではEに転調しているのです。おそらくこの「Donna Lee」は、細部の細部に至るところまで、ジャコは事前に完全に作り込み、それを完璧に弾けるまで、信じられないほどの練習を積み重ねたはずです。このEへの転調もその過程で生まれたアイデアかも知れませんが、それはともかく、このEに転調した最大の理由は、僕が推測するに、最後の最後に出てくるハーモニックスではないかと思います。4弦の開放弦での実音Eの上に、3弦及び2弦4フレット上で得られるC#とF#の音を鳴らし、E69のサウンドでこの曲を終了したかったのでは無いかと思うのです。
さらに言えば、これに続くこのアルバムの2曲目「Come On,Come Over」との曲間があまりに短いことを考えれば、ジャコは「Donna Lee」を、その曲のイントロダクション的な位置づけにしたかったのかも知れません。というのもジャコは長3度の転調が大好きで、この場合も「Donna Lee」の最初のキーAbからラストテーマはEへ、そして次の曲「Come On,Come Over」のキーがCという具合に長3度ずつ下がっています。実はジャコの代表曲の2曲、「Three Views Of A Secret」「Teen Town」でも、EとCの間での転調が繰り返されているのです。
全体のまとめ
1) 左手のポジショニング及び運指
ベーシストなら分かるとおもいますが、ポジショニングには複数の選択肢があるので、これぞ正解、というものは、本当はジャコに訊くしかありません。しかも僕の手、いやもっというなら一般の日本人の手とジャコの手の大きさの違いについては既に触れたとおりです。彼なら弾けるポジショニングも、普通の日本人には到底無理、というようなものもあるはずです。
そんなことを踏まえて、このソロにトライしようと思う方は各自、自分にとって最もふさわしいポジショニングを探してみてください。僕自身、「Donna Lee」のテーマ部ですら、未だにどのポジショニングが最適なのか迷うところがあります。
運指に関しても、トピックで触れたとおり、複雑なクロマティックの動きや、かなり至難な音の跳躍、また低域部から一気に高域部に駆け上がるフレーズのオンパレードですので、徹底的に考え抜かれた、最適と思える運指を考えなければ、到底このソロをある程度の水準で弾きこなすことは困難かと思います。
しかしながら、そういった最適なポジショニングや運指を、自ら見つけ出すという作業も、ベースの技術や奏法を身につける大事な作業だと思います。
2)右手のピッキング
ジャコのピッキングが絶妙・絶品であることは、もう言うまでも無いことかと思います。この「Donna Lee」でも、この演奏の内容を、しかもパーカッションと二人きりで、たったの一音も乱れることなく弾き切るというのは、左右のタイミングが一瞬たりとも乱れることが無かったということの証しだとおもいます。
しかもジャコの楽器の弦高がかなり高めであったということ(これはマーカス・ミラーにインタビューしたときに、本人から直接聞きました)から推測すれば、右手のピッキングはかなり強いものだったのでしょう。だからここまで強力なグルーブ感が出るのだと思います。
ただそれも、ジャコのような大きな手だからできた部分もあるでしょうから、そういった弦高の高さや右手のピッキングも、各プレーヤーが自分の体格や音の嗜好に合わせて決めるべきです。そのことによって、独自のサウンド、個性あるスタイルを構築することが出来ると思います。
3)「Donna Lee」を演奏する上での注意点
さてでは実際、皆さん自身がこの曲をセッションで演奏する場合、どんなことに注意すれば良いか、その点について考えてみましょう。
このテーマをベーシストにも弾いて欲しいという要求が来ることが多いといいましたね。ですので、そのためにも、まずはしっかりこの曲のテーマを弾けるよう練習しておくことが肝心です。それと、イントロダクションでも触れましたが、とにかくこのテーマのムードがこれほどまでに独特のものなので、それを受けてのベースソロが、例えばそれとあまりにかけ離れた「Indiana」のような可愛らしいフレージングになってしまっては、この曲を演奏する意味があまりないのではないかと思います。そのためには、トピックで挙げたとおり、オルタードテンションやクロマティックアプローチといったものが上手く使いこなせるよう、ジャズのフレージングを勉強することが肝心です。まさにジャコのソロがそうであるように。ジャコもそうですが、テーマのフレーズやテーマ感じさせるようなアプローチをソロの中にふんだんに入れることも良いアイデアかと思いますので、そのためにもテーマの練習は重要です。そうすれば、テーマのムードを引き継ぐようなソロにするための近道であるともいえますから。
あととても大事なのが、ジャズの8分音符のノリです。ジャコの演奏をもう一度聞いてみてください。8分音符が必要以上にはハネていませんよね。これが、ジャズのソロを取る上でとても重要なのです。これが必要以上にハネてしまいますと、失礼な言い方ですが、阿波踊りのような、民謡のノリになってしまいます(徳島の皆さん、ごめんなさい。適当なたとえが見つからないもので…)。これって、日本人には本当に難しい気がします。とにかくジャコの演奏をよく聞いて、ジャズらしい8分音符のノリをキャッチしてください。
4)ジャコ以外の「Donna Lee」の演奏
僕自身、実は自分のアルバムで、Donna Leeに挑戦してみました。しかも、ジャコへのオマージュのつもりで、ドラムスとのデュオでトライしてみました。もちろんエレベではあまりにそのままですので、僕はアコースティックベースを演奏しています。とにかくジャコに一歩でも近づけるような、そんな内容の濃いソロを作って、ほぼ一ヶ月、徹底的に練習してレコーディングに臨みました。もし興味がある方は僕のアルバム「琴線」に収録されていますので、是非聞いて見てください。もちろんYoutubeにも「Koichi Osamu and Hiroyuki Noritaki – Donna Lee」というタイトルで投稿されているようです。